2011年7月30日土曜日

ヒグラシ

 都市の喧騒から一筋出たところへ、唐突にこんもりとした山があります。

 夏の日の夕刻、ちょうど日没時間を過ぎたころ、犬を連れて散歩をしていました。す
ると、わたくしの好きな音が聞こえてきたのです。
 ヒグラシが鳴いています。「カナカナカナカナカナカナ」。
 目に映る風景を、淡いセピア色がかかった色合いに変えてくれるような、かぼそくも控えめに聞こえてくるヒグラシの声。

 立ち止まり、声のする方を見上げてみると、わたくしのその行為に呼応するかのように、また鳴きました。
 カナカナカナカナカナカナカナカナ。


 リードをはずした犬は、聞いているのかいないのか、前をトコトコ歩いています。車も人もめったにすれちがうことのない細い道です。

 山には、お宮があります。その境内には、長久の歳月を立ちつくす対のイチョウの巨木が、青々とした枝葉を広げ、天まで伸びています。


 幼いころ、蝉を家に持ち帰った日、母親に「逃がしてやりなさい」と、諭されたことを思い出します。


 生きているということは、尊いことです。


 ボクは、まるで自分だけが、一生懸命になっているような気がしてしまい、それを邪魔しようとする人と出会うと、何がしか反感を持つ習性があります。些細なことなのにと反省をしても、またそのような場面に出くわすと繰り返してしまうのです。

 愚かな者です。


 人は、それぞれに、さまざまに生きていくために努力をしているはずです。通り過ぎる人、ひとりひとりが皆そうだと思います。あらゆる生物も同じことです。

 自分が、生きるためにあくせくしている分、ひとも等しく若しくはそれ以上に、努力しているのだと思うことができれば、わたくしの愚か癖は、改善されるかもしれません。
 生活をしているということに、敬意を持つこと。
 そうしようと思います。


 「昔にも、同じように注意を受けたことがありましたね」。


 ヒグラシのせつない声を聞きながら、そんなことを考えたのでした。



 2008.7


9月の風ホームページより

2011年7月27日水曜日

教育的配慮



夏の甲子園、県予選が終わった。

結果的には、強豪シード校の優勝で順当というところだろう。

しかし、
準決勝第2試合で、事件が起きた。

局面は、延長10回表2アウト3塁。 スコアは4-4。
ノーシードながら準決勝まで勝ち進んできたチームの攻撃。
守備についている方は、古豪のシード校。

打者に応じて、2人のピッチャーを、レフトの守備と入れ替えていた。
そしてこの場面、
2度ピッチャーズマウンドに上がった選手を、さらにスイッチし、レフトへ交代させプレイオンとなった。

高校野球特別規則。
1イニングに2度マウンドに上がった選手は、次に違うポジションに着いてはならない。

タイムがかかる。
ベンチの控え選手が、レフトへ入れば問題はない。
しかし、守備側チーム、すでに全選手を使いきっていたのだ。

フィールドプレイヤーが9人に満たなくなった場合、即没収試合となり相手チームの勝ちになってしまう。(記録上は、9-0)

79分間の中断。

広島県高校野球連盟が出した結論は、ここで試合を止めれば禍根が残る、
教育的配慮から、それまで投げていたピッチャーのレフトへの交代を審判員は受理していないことにしたのだ。

すでにレフトの守りに着いていたはず選手が、再びマウンドに戻り試合再開。

攻撃していたチームが初球を弾き返し、スコアは5-4に。


だが、ここからが、問題なのだ。

その裏、つまり延長10回裏、
1点リードされた古豪チームが、1アウト満塁と攻め立てたのだ。
一打出れば、逆転サヨナラの場面。


結果的には、5-4のまま試合は終わった。

タラレバを語ることは、意味を持たないとよく言われる。
しかし、
10回の裏、ワイルドピッチもあっただろうし、スクイズも可能だった。
それで、勝敗が入れ替わっていたらどうなっていただろうか。

どちらの禍根が大きいだろうか。

教育的配慮とは、いったい何か。

あなたが、責任審判員だったらさて、どうしただろうか…。


(2016.7.25加筆)

2011年7月24日日曜日

ひと

ひとは、
きっと、いつも誰かに護ってもらっている。


たから、
感謝するのだ。

有り難うございます。

2011年7月15日金曜日

キリンテラス2

広島市安佐動物公園のキリンテラスが、完成したらしい。

テレビ局のカメラマンと、動物園の飼育課長さんから、相次いで電話を貰う。
7/22(金)13時。
報道発表と一般発表を、同時に行うらしい。

報道発表って、なんとなく仰々しく聞きなれないが、両者にとっては普通なのだろう。

動物園の中に、アフリカ平原という名の本当に平原がある。
その一角に設計したキリンテラス。
もちろんこの名称は、仮称で、実際にはどんな名称で発表されるのか、わたくしも知らない。

ライオン観察デッキが、「レオガラス」になったように、
何か特徴を捉えたキャッチーな名称で、発表されるのだろう。


そのオープニングセレモニーに、わたくしも来て良いということなので、
スーツでも着て出かけようと思っている。


カメラマン氏。
当日、夕方のニュースで取り上げます。
オープニングの様子を流した後、
わたくしが、設計しているところや、工事中の様子等、約10か月にも及ぶ取材を、
そのままニュース番組の中で紹介します。とのこと。

広い平原の中で、ダチョウに脅され、キリンにベロベロ舐められながら測量し、
苦労して設計したので感慨深いものがある。

なんとも有り難い話である。

ちなみに、
17時54分からの、スーパーニュース(FNN系列)のローカル枠(TSS)です。

自分

自分には、両親が、いない。


寂しい。

2011年7月13日水曜日

氏神さま

早朝、氏神様に参拝した。

静かで思っていた以上に、凛とした場所。


清々しい。

蝉が鳴いている。
大きな銀杏の木が、一対。

建立の歴史を紐解くと、戦国時代まで遡る。


夏の朝、
ひとり、神社に参拝した。

2011年7月12日火曜日

悲惨な注文

それは、悲惨なまでの注文だった。

道路がない。
資金がない。
借金がある。

数年前にローンで購入した不動産を売却しなければ、いわゆるダブルローン。

隣地にある遊休地を、工事期間中借地することが可能ということが、唯一救い。
施工に支障はない。


敷地を見た。
既存住宅と周囲を、観察する。

暫く、その場に佇む。

身体から時間軸が、溶融する。

まだ、景色として存在しているはずのない家が、
現実としてそこにあるはずの時空を透過し、
そのシルエットを、わたくしにアピールしている。


面白い家が、描ける。


家が、

事情を移動させ、

自らの生命力で、生まれ替わろうとしている。