2022年6月14日火曜日

建築ブログ 酒の肴

 


一般の方から、2階建ての住宅は、階段が要らないのでは?と問われた。

ネットに出ていると。そんな訳は有りませんと否定した。

 

 仕事の切りが良い時ふと思い出し、ネットを引いてみた。

なるほど、「住宅 階段 不要」と検索すると真っ先に出てくる「2階建ては階段が不要」。ただし著者は、建築法規に携わる者とあるが資格も名前も無い。

 

 結論から言うと、2階建ての住宅でも階段は必要である。

先の著者、投稿の拠り所を「直通階段」としている。

階段は、直通階段とそうではない階段に分類される。直通階段とは、まさに直通で、途中で階段以外を通ってはならない。

 

 建築基準法は、直通階段が必要な建築物を規定している。

3階建て以上とか、大きな建物とか…。避難が遅れると危険な建築物についてだ。

そして、たとえ2階建てでも守らないといけない階段そのものの規定がある。

階段の幅とか、蹴上の寸法とか踏面の寸法。最低これ以上あるいはこれ以下でないといけないという規定だ。それは、危険だからだ。

 

 建築は、許可ではない。確認である。それぞれ資格者が法に則り設計し、特定行政庁の建築主事という資格者がそれを確認する。

確かに、2階建ての住宅に階段が必要という条文は無い。

ただ、有資格者が階段の無い住宅を設計できるだろうか?またそれを有資格者が確認できるだろうか?出来ない。何故なら、階段が無かったから避難が遅れ被災する人がいれば、当然責任を問われるからだ。

建築基準法 第1

この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

 

2022.6.13

著者/一級建築士飯田修平 本文は私見細かな法規定等は省略した


2021年12月16日木曜日

赤木雅子さんへの思い

 

赤木雅子さんへの思い


「アカギさん?誰ですか。」財務大臣を兼務していた当時の麻生副総理が、国会での囲み取材に応じた言葉が耳から離れない。末端のノンキャリまで一々知らないという大臣のお惚けだろうが、事件発覚前ならまだしも、森友問題は大きな話題になっていた。本当に知らなかったのであれば、新聞も読まない無知な国会議員だ。国会答弁で官僚が書いたペーパーの有無という単語を何度も、「ゆうむ」と読んでいたのも頷ける。

 

「それはね、わたくしの妻やわたくしが関与していたとしたら、私は総理大臣を辞めるし国会議員も辞めますよ」。当時の安部総理大臣の衆議院予算委員会での答弁だ。一瞬場がざわついたのを覚えている。我が国の官僚は、優秀な人材とされている。それも局長クラス以上ともなれば際立つだろう。その高級官僚たちは誰を向いて仕事をしているのであろうか。この頃以後、忖度という言葉をよく聞く様になった。指示は無くとも上の者の意を汲むという意味だろう。

 この予算委員会での総理大臣の答弁で、官僚たちは慌てたのではなかろうか。大変なことになったぞと。それが財務省の決裁文書改ざんへと財務官僚たちを走らせたのではないか。勿論実行役は、トップが名前も知らないノンキャリだ。上司からの命令となれば、一切逆らう訳にはいかない失礼ながら末端の職員だ。いつもどんな時も何に関しても、犠牲になるのは弱者だ。

 昨日、2018年に自殺した財務省近畿財務局元職員赤木俊夫さんの妻赤木雅子さんが国と当時夫の雲の上の様な上司佐川宜寿元財務省理財局長元国税庁長官を相手どった訴訟の内、国は責任を認め約1億円と言われている賠償金を支払うこととし、詳しい説明も無く無理矢理この訴訟に幕を降ろした。

雅子さんは、記者会見で「国は誰のためにあるのか」と声を張り上げたという。当然だと思う。官僚は大臣の顔色を窺い部下たちはまた上司の顔色を見ている。皆、自分の出世のことばかり考えていると言われても仕方ない。中には気骨のある役人もいるとは思うが、なんと情けない国家であろうか。

真相究明を求め、国という巨大勢力と19か月も争った赤木雅子さんの心痛は如何ばかりか。想像すると共に泣きたい気持ちだ。

 

2021.12.16


2020年5月14日木曜日

残酷な神様




昨年、前立腺癌と戦い
年末、肺癌が見つかり
手術、退院。
最近、経過観察で、
肺の別の部位に影があると。

これが、癌だとすると
転移ではなく、多発性癌ではと

言葉を失う

よく酒も飲んだし
迷惑を掛けてしまったこともある、 重要な友人。

二度目までは、まだ聞けた。
だけど、三度目は…

電話越しに聞こえるロックウイスキーを作り替える音。
だんだん酔ってきた口調
相当ダメージを受けただろうメンタルが伝わる。


こんなにいいやつが、なんでこんなめに会うんだ?

残酷な神様
 


   

2020年3月8日日曜日

前田専用ハサミ




 前田とは、あの落合監督が天才と呼び、あのイチロー選手が尊敬すると言った、カープの前田選手。誰が見ても繊細で、神経質に見える。

 ある日、わたくしは、行きつけの床屋へ行った。そこの先生、もともと理髪店の主を、先生と呼ぶ習性がなかったわたくしだが、その先生は、いろいろな意味で、その意味は省略するが、やはり先生であり、わたくしが独立する前からの付き合いだ。その先生が、一本のハサミを持ってわたくしが座っている椅子の後ろに立った。このハサミは、前田専用のハサミだ。浩二でさえ使っていない。一本26万円。ここに、ベアリングが入っている。と、刃先と持つ方がクロスする小さな丸い蝶つがいを指して言った。ちょっと見てみろ、髪に片方の刃を軽く当てただけで、髪がすっと落ちた。これはソリだ。ソリが二本付いている。1ミリの三分の一まで、ずれずに切れる。鏡の中の先生は、冷静で淡々としている。いつもと変わりないように見える。

 そんな大事なハサミを、前田選手以外に初めて、わたくしに使うのだと言う。何が、おきているのか分からない。とにかくそのハサミで、わたくしの頭を刈り始めた。先生のことだから、前田選手が、脚光を浴び始める前から、おそらく15年は、前田選手だけの頭を、刈り続けたハサミだと思う。

 その時、先生は、突然何故か、わたくしを励まそうと思ったのだ。次は、また元のハサミを使うだろう。そうだとしても、そして、すでに二代目前田専用ハサミは、用意してあるとしても、びっくりする。有り難い。これほどまでに心から、激励されることはめったにあるまい。感謝する。




 2008.3

2020年2月24日月曜日

繊細なプロムナード




静かに、ゆっくりと、導くアプローチ。
傍らに手を伸ばせば、そこに溢れ出る泉。
水盤は、一瞬の鏡面となり、自らの心理を映し、
天空からの光束を映す。
夜となく、昼となく。
時また巡り一陣の風。
木々の枝葉を揺らし、心ざわめく。
人が人と離れ、また会うための、繊細なプロムナード。





  
  

  

  

2020年1月7日火曜日

ライオンのウイスキー




シゴトをしているんですよ、ライオンは。展示物だという役割の意味を分かっているんです。「えっ?」動物園の飼育課長の言葉が、あまりにも衝撃的だったので思わず聞き返した。

展示物である百獣の王ライオンを、もっと身近に観て欲しいということで、市役所から建築設計の委託を受け、飼育舎の形状について、担当者と打合せをしていた時のことだ。

ところで、設計事務所を始めて、四半世紀が経とうとしている。十年二十年と一つのことを続けていると、色々な人に出会う。相手には当然言い分が有るだろうが、ついには設計料の支払いを拒む人に出くわしてしまった。直接交渉が出来ないので、弁護士の世話になり、弁護士と係争の為の不毛な打合せを何時間も続けることになる。それはまるで、実社会と法律の向う側に、隔たりが有るかのようだ。弁護士が説明する「法律の向う側」は、難解で混乱してしまう。打合せが終わると、僕には実社会の仕事が待っている。僕は今、疲弊した精神を癒すべく、ここに座っている。

明るい内からウイスキーが飲める小振りなホテルのロビーサイドバーだ。ロビーの突きあたりにある小ぢんまりとした空間で居心地が良い。カウンターの正面は、縦にスリットが切ってあって陽が傾く頃ちょうど眩しくなり、目を細めながら丸氷の音を聞いていると、いつの間にか、締め付けられていた心が和み始める。

仕事といえども、穏やかに暮らすライオンと、仕事の要因で疲れきった自らを回想し、現実を手繰り寄せている。バーテンダーは知識が豊富で、さまざまなウイスキーの生い立ちを質問しては、ボトルを交換し、ひと時を過ごしている。

そんな僕には、建築を創造する時、独立以来ずっと意識してきたことがある。それは、その土地が持つポテンシャル(可能性)を最大限引き出すことだ。どんな土地であっても、仮にそこには、展示物として棲むライオンが必ずいるはずだ。
   例えば、荒涼とした海辺で悠久の時を経て、潮の香りを放つシングルモルトウイスキーのように。
  
                        2017頃 2020.1加筆編集

2019年8月8日木曜日

大型トレーラーのモンローウォーク




 窓から見下ろす風景に、不思議な交差点がある。
それは何とも奇妙で、珍しい交差点。
僕も、ここに来るまで見たことがなかったし、他にこの様な交差点を知らない。

僕は、三か月程前にここへ越してきた。
引っ越しするまで、散々様々な物件を見てきたし不動産屋にも色々世話になった。
だがここは、パソコンの衛星写真を見ていて自分で見つけたのだ。
 面白そうな場所に、面白そうなビルが建っていた。しかし、僕の対応をしていた不動産屋は、この様な手頃な賃貸物件を知らなかった。
 面白そうな建物とは、それは建築士の勘としか言いようがなかった。道路から見て奥に細長いこの小さな建物は、その右辺が若干バチッていた。更に、建物の奥には別の道路がちょうどこの建物の幅で突き当たっていた。あれっと思って、若しくはピンときて、色々検索したら、一部屋だけ入居者を募集していた。ネットワークで繋がっているはずの不動産屋は、意外と当てにならないものだ。

赤信号で右折可能を示す青矢印が点くと、普通ドライバーは右に大きくハンドルを切る。しかし、この交差点は違った。右にハンドルを切った直後にすかさず左に大きくハンドルを切らなければならない。右折する時は右ウインカーを、左折する時は左ウインカーを出すのが常なのだけど、この交差点は違った。右ウインカーだけで、右に曲がり直後に左折するのだ。
僕は、不思議だった。ここを通るドライバーは横着物が多いのだなと暫く観察していたが、右折した後左ウインカーを出したのは、今まで一人しかいなく、しかもそのクルマは普通車でこの交差点に不慣れか初めて通るドライバーだったらしかった。
それは、大型トレーラーといったプロ中のプロ全員が、右ウインカーだけでこの交差点をやり過ごしていることで分かった。
何故か。分かる人がいるだろうか。その人はきっと近所に住んでいるか、ここをよく通る大型トレーラーの運転手さんだろうな。
 それはね、なんと右折するその道はそのまま進むことが出来ない様に、交差点内で左に大きくカーブしている道だったのだ。驚きというか衝撃的というか。その事実を知った時、僕は腰が抜けるかと思った程だ。()

寝そびれた深夜などに、僕は廊下に立って、その交差点が一番よく見える窓台に立ち飲みバーのカウンター宜しく水割りウイスキーを入れたグラスを置いて、窓を開け煙草を吹かしながら何十分も、荷台を牽引して走る大型トレーラーのセクシーな腰振り走行を眺めているのである。