2016年1月18日月曜日

明るいうちに座ったバーカウンターにて


週末、顧問弁護士との非日常的な会議が、
夕方少し早い時間に、終わった。

日常に戻るための緩衝地帯として、
行きつけのホテルバーへタクシーで行き、ボクはカウンターに、腰を掛けた。
時間が早いので店主バーテンダーは不在で、
最近ソムリエの資格を取得した女性スタッフが、店番をしていた。

折角なので、フルーティーな赤ワインを注文し、たっぷり膨らんでいるグラスで、そのワインを口に含んでいると、
一つ空けて隣の席に、一回りくらい年上の婦人が座り、
ボクのとは違う赤ワインをオーダーし、煙草に火を点けた。

しばらくその婦人客とソムリエの話を聞きながら、
時折、相槌を打っていると、その婦人がボクの方を向いて唐突に、
あなたは建築家かと聞いた。
建築の話などしていなかったし、名乗る程の建築家ではないボクは驚き、ボクとソムリエは顔を見合わせ、
クリエーターらしきその婦人に、
「どうして、そう思われたのですか」と、ボクが質問をした。

私が知っている建築家と同じ目をしているのよ、あなた。

ゆっくりと紫煙をはきだした後で彼女は、そう答えた。
益々驚き、同時にその建築家は誰なのだろうという興味を抑えられず、
またボクは質問した。
広島在住で全国に名を馳せている、且つ、ボクが尊敬する建築家の名前を、彼女が口にした。

その建築家と彼女は、25年程前とある酒場で出会い以来ずっと今日まで飲み友達であること、彼女が写真家であること、その建築家が開いた展示会をお互い見学していたこと等が分かり、名刺交換をした。

ファインダー越しに被写体を観察するという職業が、その閃きの源なのだろうと推測できた。

それにしても、尊敬する人と同じ目と言われたことが嬉しく、赤ワインを2杯飲み終え彼女が日常の如く席を立った後、暫く、ボクとソムリエは、その奇跡の様な一言を回顧した。

「あなた、建築家?」。

  


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