受験、受験と騒がしかった我が家に、
久しぶりに、普通が帰ってきた。
何十年も前、
わたくしは、公立高校を受験した。
その頃は、ネットなんて無くて、
受験校の掲示板を見るしか、受かったか否かの情報を知る術がなかった。
まだその頃は、父親が生きていて、
父親は、秘かに、その掲示板を、見に行った。
一方わたくしは、当然あるべき番号を即座に見つけて帰宅した。
間を置かず、そこへ父親が帰ってきて、
されたことのないことを始めた。
父親は、わたくしを慰めようとしている。
番号が無かったと…。
びっくりしたことを、今でも鮮明に覚えている。
さて、あの時、父親はどんな気分だったのだろうか。
知りたいなと思っていた。その時、父親はどんな心境になるのか。
受かっていたとしても、そうでないにしても。
家人と当人は、スマホを覗き込んでその時刻を待っていた。
第一志望校の合格発表、受験から二日後の4時。
わたくしは、そうは言っても迷っていた。
目の前には、パソコンが有り、受験校のHPが立っている。
このまま、あと2時間ほど待っていれば分かること。
しかし、急にどうしても体験したくなった。その父親の気分を。
もし息子が合格していたら登校に使うはずの交通手段を、経験してみた。
所要時間46分。電車の乗り換え1回。まずまずだな。
予定発表時間まで、あと15分。
予定は予定なので、適当に張り出しているかもしれない。
掲示板の前まで行ってみた。まだ無い。
どうやら、時間は正確らしいことを察知した。
遠巻きに親子が、掲示板を囲んでいる。
外のタバコ屋の前まで行き、一服つけてくればちょうどいいだろう。
再び、掲示板の前、まだ5分ある。
隣に、一組の親子が立った。
隣で、カウントダウンが始まった。あと3分、2分。
二人の学校職員が、大きなボードを裏返しにして持ってきた。
4時ジャスト、ボードを表側にして掲示板に張り出した。
その瞬間、番号が見えた。
父親の心境は、一部味わえず仕舞い。
すぐに、見つけてしまった。
携帯で、写真を3枚ばかり撮り、掲示板を背に外へ向き静かに歩き出した。
受験前、「受かる気がする。」
試験後、「あの学校に通うと思う。」等と、根拠のない自信を持っていた息子。
校内の広場を半分も歩かないうちに、家人から電話。
息子と共に喜びを爆発させている。
知っているよ。見たからね、掲示板を。
ビールが飲める最も近い店に入って、グラスにいつものように、手を合わせた。
「ずるいよ、父さん。」
3回程グラスを替えてもらったとき、手続き書類を持った家人と息子が入ってきた。
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